ゲイリーマン浩平の紀行文です。旅行中に起きたささやかな出来事を筆者らしく文章にしています。今回は台湾人に恋をして振られる迄の数ヶ月を綴っていきます。vol.2は、主に「テレビ電話」についてです。

亞洲日和「台湾失恋物語」vol.1

成田空港に到着し、空港内のヴィジョンで発着便の一覧を確認すると、案の定、CI109は30分遅れの21:50発に変更されていた。夜便の飛行機が遅れるのは、いつもの事だ。コンビニで夕飯を買い、荷物検査に向かった。出国審査を待っている間、友人がいないかちらっと確認したが、さすがに友人は出国審査台にはいなかった。免税店でタバコを買い、出発ゲート付近の椅子に腰掛け、さっきコンビニで買ったビーフンを食べた。そして、ツムラ12番を飲み、文庫本を読みながら、飛行機の出発を待った。

忠永は、自分が台湾に向かっていることを覚えているだろうか?と、ふと不安に駆られ、Twitterを更新した。「I still want dramatic and romatic love… Is it too late too much?」直接LINEでメッセージをすれば良かったのだが、毎日のようにテレビ電話をしてきて、ここにきてぴたりと連絡がなくなったので、意地を張っていた。恋愛をするとこういう女々しさが心の中を支配していく。客観的になれず、一人で恋愛をし始めてしまう。まるで、途中までは圧勝していたが、打つ場所がなくなったオセロみたいだった。

自分は、忠永と出会うまで誰かとテレビ電話をしたことがなかった。無駄な機能という位置付けだった。しかし、使ってみると実に便利な機能である。毎晩、かかってくるテレビ電話は「I cherish you」という気持ちの表れだと忠永はいっていた。一日平均30分、主にその日の出来事やニュースについて話した。その他には、日本についての話題が多かった。蛇足だが、エロいことは一切していない。忠永は学生時代、小室哲哉がプロデュースしたアーティストが好きだったようで「How is Keiko san these days?」など、こちらが驚くようマニアックな質問をよくされた。その度に思ったが、日本人の自分は台湾についてあまり知識がない。台湾人が日本について知り過ぎてるという見解もできるが、長い間、台湾人に片思いをさせているような気になって、少し申し訳なくなった。

ある日、今からバイクに乗るといわれ、通話を切ろうとした。しかし、ちょっと待って!といい、忠永は胸ポケットにスマホを入れ、我々は夜の台北の街をドライブしたことがあった。じっと画面を見ていると乗り物酔いしそうになったが、気分は「南くんの恋人」の高橋由美子だった。また、忠永が実家に帰った時は、お兄さんとも短い会話を交わした。実家の近くに行く時は、お兄さんが案内してくれるという。最初は全てが照れくさかったが、いつの間にか、思考回路はふにゃふにゃに溶けてしまい、完全にハマってしまった。住む街も、話す言語も違う。しかし、通じ合っていけると信じていた。

CI109は遅れていた予定時刻より5分早く機内への搭乗を開始した。指定した通りの通路側の座席に腰掛け、また文庫本を読んだ。しばらくして、左隣の席に台湾人の男が座った。その隣には5歳くらいの女の子、その更に隣には台湾人の女が座った。家族3人で台湾から日本にきていたのだろう。疲れた様子で、飛行機が動き出してすぐに寝てしまった。離陸後、自分は機内食を食べながら、映画「バットマン vs スーパーマン」を鑑賞した。普段、LCCに乗ることの多い自分にとっては、どんなにしょぼい機内食だろうと、どんなに小さい液晶だろうと機内で映画を観れるというだけで、至福の時間である。映画を観終わると飛行機は着陸の態勢に入った。何度か耳抜きをして、自分を乗せた飛行機は台湾の地に降り立った。降り立ってからの方が緊張する旅は、生まれて初めてだと大きく息を吸った。

続く・・・

※プライバシーに配慮して、登場人物の名前は偽名になっています。また、若干の妄想も含まれています。

<最終編集:2016年7月>

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